2017-10-25から1日間の記事一覧

今いる世界の「正常」に違和感を覚えたとき、人はそれとどう向き合っていけばいいのか――村田沙耶香『消滅世界』

自然妊娠ではなく人工授精が主流となり、恋愛やセックスと結婚・妊娠が切り離されたパラレルワールドの日本が舞台。 そこでは人間同士の恋愛やセックス、自然妊娠による出産は既に廃れた風習とされ、人によっては「異常」なことと受け取られてしまう。(だけ…

自分の中にある価値観を激しく揺さぶられる衝撃作! 村田沙耶香『殺人出産』

表題作『殺人出産』の他、三作品を含む短編集。どの作品も、「今この世界で当たり前とされている価値観が覆されて、新しい価値観が当然のものとして多くの人たちに受け入れられている世界」を描いており、読んでいるうちに自分の中にある価値観が激しく揺さ…

人を殺すことが心の拠り所となってしまった女が後半で見せる弱さ、健気さ、深い愛――沼田まほかる『ユリゴコロ』

結婚を考えていた恋人・千絵が突然失踪し、父親は末期の癌に倒れ、その矢先に母は交通事故であっけなく他界。立て続けに大切な人を失った「僕」が、父親の部屋から母のものと思しき遺髪と四冊のノートを発見するところから物語は始まる。 ユリゴコロ (双葉文…

絡み合い、決して離れることない二匹の蛇が行きつく先は? 加藤元『蛇の道行』

交尾中の蛇はあざなえる縄のごとく、交互に絡み合いながらそこら中を這いずり回る。『蛇の道行』は、そんな蛇のイメージをモチーフに、正体不明の未亡人・青柳きわと戦争孤児となった立平との道中を描いた作品です。 青柳きわという名前があるのに「正体不明…

不気味な蟹の幻覚から逃げてきた一花が迷い込んだのは……加藤元『山姫抄』

山姫というメルヘンチックな言葉と表紙のイラストの可愛さに惹かれて、いわゆるジャケ買い(正確にはジャケ借り)した本。加藤元さんのことはこの作品で知りました。 日本に実際に伝わる『山姫伝説』をベースに、ある田舎町から消えた女たちの謎を追っていく…

「やみつき」になる読感(食感、ならぬ)平松洋子『買えない味2』

図書館平松洋子さんの『買えない味2』。エッセイの公募にはまっていた時期に、図書館でなんとなく手に取った本です。 書き手の平松さんはアジアを中心に世界各地を回っていらっしゃるようです。実はわたし、現代日本以外の食文化(海外とか古い時代とか)に…

目をそらしたくなるのにどこか懐かしい。川上未映子・初の短編集『愛の夢とか』

川上未映子初の短編小説『愛の夢とか』。 これまでにも『ヘヴン』や『すべて真夜中の恋人たち』、それから詩集『水瓶』など、彼女の作品はいろいろ読んできましたが、今作も未映子さんらしい独特の世界観が魅力的でした。 愛の夢とか posted with ヨメレバ …

噂の『国語入試問題必勝法』はとんでもない型破り小説だった!

ネットで思いっきり笑える小説を探していたところ、いろいろなサイトで『国語入試問題必勝法』(清水義範 著 / 講談社)が取り上げられていました。 サイト上にある感想は「電車の中で読んではいけない」「抱腹絶倒すること間違いなし」というような内容ばか…

噂と憶測で不安をふくらませた母親たちの行動が悲劇につながっていく……英国ミステリの女王が描いた衝撃作『遮断地区』

作者が現代英国ミステリの女王であること以外何の知識もなく手にした『遮断地区』 (ミネット・ウォルターズ / 創元推理文庫) 。よくある謎解きどんでん返し系の作品ではなく、どちらかというとスリリングホラーに近い内容でした。かなりショッキングなシーン…

フランス文学『椿姫』に学ぶ気高い愛の教え

フランス文学の名作『椿姫』を読みました。 オペラや歌劇にもなっている有名な作品です。いろんな方が訳していますが、個人的には『椿姫 (光文社古典新訳文庫)』の西永良成さんの訳が現代風で読みやすくておすすめです。 高級娼婦が主人公ということで、淫靡…