目をそらしたくなるのにどこか懐かしい。川上未映子・初の短編集『愛の夢とか』

上未映子初の短編小説『愛の夢とか』。

これまでにも『ヘヴン』や『すべて真夜中の恋人たち』、それから詩集『水瓶』など、彼女の作品はいろいろ読んできましたが、今作も未映子さんらしい独特の世界観が魅力的でした。 

 


それにしても、短編集が初めてというのは意外でした。

情熱大陸に出演されているときに(当時『ヘヴン』執筆中)、「長編を書くのに慣れていない」という理由ですごく苦戦されていたので、勝手に「短編の人」というイメージになっていたんですよね。

そういえば、短編集読んだことなかった! 「中編の人」だったんだね!

 

……ということで、続きで収録作品のうち3作品をピックアップして感想を書きたいと思います。


※以下、軽いネタバレを含む可能性があります。

 

 

アンバランスさに興味を惹かれる『アイスクリーム熱』

イスクリーム屋で働く主人公と、そこに毎回決まったペースで決まったアイスを買いにくる男の人との交流を描いた物語。主人公たちはいい大人なのに、恋愛の仕方はまるで思春期の少年・少女みたいでした。

「アイスクリームが作れる」と嘘をついてやや強引に彼の家に遊びに行った主人公は、なんとかアイスを作ろうとするができあがったのはどろどろの粥みたいな代物で……。

 

好きな人の気を惹くためにすぐにバレる嘘をついてしまうところとか、その嘘がバレたときの何とも言えない微妙な空気とか、せっかく勇気を出して関係を進展させたのにそこからどうすればいいのかモジモジしているうちに不完全燃焼のまま謎を残して終わってしまうところとか、若いころに誰もが経験したことがあろう恋の苦々しさを凝縮したような作品でした。

 

うつくしい思い出の続きなんて見たくないなと感じた『日曜日はどこへ』

ある作家の死から物語は始まる。

その後、かつての恋人・雨宮くんと、「その作家が亡くなったらたとえお互い別のパートナーがいても必ず会おう」と約束した主人公は、約束の植物園へと足を運ぶ。

何年も昔に交わした曖昧な約束に浮足立つ主人公を痛々しいと感じ、目をそらしたくなった。それはつまり、わたしの中にも彼女と同質のそれが眠っているということだろう。
うつくしい思い出ほど続きを求めない方がいい、なんてことを考えさせられた作品だった。

 

出産を間近に控えた女性の心理を鋭く描いた『三月の毛糸』

娠八カ月の妻とその夫が、「子どもが産まれて動けなくなる前に」と京都旅行をする話。

心配性でなんでも悪い方向に想像してしまう妻は、ホテルのベッドで眠っている間に夢を見る。そこはなんでも毛糸でできている世界で、嫌なことや危険なことがあったらいったんほどけてやり過ごすのだという。

出産を前に苛立っている妻とそれに対して嫌気が差し始めている夫との間に孕む緊張感が、読んでいて息苦しかったけれど、この「毛糸の世界」という発想がとても気に入った。


おわりに

から一日だけ借りて気になるタイトルだけ読んだので、その他の作品は読んでいません。たまにはこういう読み方もいいかなって。
あと、『アイスクリーム熱』といい、この作品といい、未映子さんの作品は本当にタイトルが素敵だなあ、と。