竹製のヴァンパイアと人間との禁断の交流を描く『ほんとうの花を見せにきた』

ァンパイアの話と聞いて飛びついた『ほんとうの花を見せにきた』(桜庭一樹・著)は、桜庭さんの作品にしてはシンプルな印象を受けました。

読んでいる最中は正直「あれ、外れかな?」と失礼なことを考えたんですが、読み終えたあとにじわじわと心に迫ってくるものがあって、未だに作品のことを思い返してはその世界観にひたってしまう自分がいます。

 

さて、この物語の舞台はニッポン(でも、たぶんパラレルワールド)です。(『あなたが未来の国に行く』だけは中国)だけど、マフィアが蔓延っていたり人殺しやレ〇プといった犯罪が横行している感じは、どちらかというと東南アジアのスラム街みたいなイメージ。

本作は、そこで人間たちに混じって生活する「バンブー」という竹の吸血鬼と人間との交流を描いた物語で、『ちいさな焦げた顔』『ほんとうの花を見せにきた』『あなたが未来の国に行く』の三本立て。それぞれ繋がりのあるストーリーになっています。

 

 

『ちいさな焦げた顔』(青年バンブー二人と人間の少年)

フィあによって家族を皆殺しにされ、自分も殺されかけていた少年・梗ちゃんがとある青年バンブーの気まぐれで救われるところからスタート。バンブーたちは人間と交流することを固く禁じられていて、破れば『火刑』という最も重い罰を受けることになるのだが、その罪を犯してまでバンブーたち(青年バンブー二人はパートナーを組んで一緒に生活している)はこの少年を守り育てようとする。

止まった時間を生き、体温すら持たないバンブーたちにとって、人間は「火」のように熱くて変化していくもの。彼らはそこに希望を見出している。

このあたり、親が子に人生を託す感覚に似ているのかなと(子育て経験がないからなんとも言えないけど)

海沿いの家で密やかに親子のような絆を築き上げていく彼らだが、死ぬまで一緒に暮らしたいと願う梗ちゃんの想いに反して、バンブーたちは大人になった彼を送り出すことを望んでいる。

そのことで両者はすれ違い、梗ちゃんは寂しさから反抗的な態度を取るように。
バンブーたちの不在時に出歩くようになった梗ちゃんは、茉莉花というはぐれバンブー(「掟?なにそれおいしいの?」って感じの子)とつるみ始める。

しかし、それが結果的に大切な人たちを失うことになってしまって……。

「どうかそうはならないで欲しい」という願いも虚しく、という感じで、最後の方は読んでいて「あああああああ」ってなりました。

 

『ほんとうの花を見せにきた』(はぐれバンブー人間の娘)

莉花のターン。『ちいさな焦げた顔』から六十年後の世界を描いた話で、梗ちゃんが最後の方で引き取った娘・桃が登場する。

二人は共謀して人間を襲っているのだが、決して相手を殺さないように、気絶させて血だけ抜いていくというルールのもとで動いている。

最初、どちらかというと桃の方が茉莉花に依存している感じなのだが、桃が恋をしたところから二人の立場が逆転して……。

竹族特有の儚い最期が幻想的でした。

 

『あなたが未来の国に行く』(竹族の王族メイン)

『ちいさな焦げた顔』で残酷な処刑シーンが出てくるのだが、このシーンに登場する竹族(バンブーたちのこと)の王様が王になった経緯が描かれている。

第一章ではただただ冷酷無慈悲な王に見えるが、この章を読んだあとではその印象がつかみどころない感じで揺れ動く。

『ほんとうの花を見せにきた』もそうだけど、タイトルにひねりが効いています。さらに桜庭さんらしい伏線の張り方でも楽しませてくれました。

 

おわりに

つの物語それぞれに違った形の別れがあって、そのあたりも見どころです。優しさと残酷さとが入り乱れる桜庭ワールドをぜひ体感してみて下さい!