読んだくれ

竹製のヴァンパイアと人間との禁断の交流を描く『ほんとうの花を見せにきた』

ヴァンパイアの話と聞いて飛びついた『ほんとうの花を見せにきた』(桜庭一樹・著)は、桜庭さんの作品にしてはシンプルな印象を受けました。 読んでいる最中は正直「あれ、外れかな?」と失礼なことを考えたんですが、読み終えたあとにじわじわと心に迫って…

「何気ない日常体験でここまで遊ぶことができるのか!」と衝撃を受けた――穂村弘『整形前夜』

穂村弘さんのエッセイにドハマりしておりまして、最近三冊ほど購入しました。こちらの整形前夜と『にょっ記』シリーズです。(『にょにょにょっ記』は文庫版がまだみたいだったから待ってます) 本日はその中から『整形前夜』をご紹介。 整形前夜 posted wit…

今いる世界の「正常」に違和感を覚えたとき、人はそれとどう向き合っていけばいいのか――村田沙耶香『消滅世界』

自然妊娠ではなく人工授精が主流となり、恋愛やセックスと結婚・妊娠が切り離されたパラレルワールドの日本が舞台。 そこでは人間同士の恋愛やセックス、自然妊娠による出産は既に廃れた風習とされ、人によっては「異常」なことと受け取られてしまう。(だけ…

自分の中にある価値観を激しく揺さぶられる衝撃作! 村田沙耶香『殺人出産』

表題作『殺人出産』の他、三作品を含む短編集。どの作品も、「今この世界で当たり前とされている価値観が覆されて、新しい価値観が当然のものとして多くの人たちに受け入れられている世界」を描いており、読んでいるうちに自分の中にある価値観が激しく揺さ…

人を殺すことが心の拠り所となってしまった女が後半で見せる弱さ、健気さ、深い愛――沼田まほかる『ユリゴコロ』

結婚を考えていた恋人・千絵が突然失踪し、父親は末期の癌に倒れ、その矢先に母は交通事故であっけなく他界。立て続けに大切な人を失った「僕」が、父親の部屋から母のものと思しき遺髪と四冊のノートを発見するところから物語は始まる。 ユリゴコロ (双葉文…

絡み合い、決して離れることない二匹の蛇が行きつく先は? 加藤元『蛇の道行』

交尾中の蛇はあざなえる縄のごとく、交互に絡み合いながらそこら中を這いずり回る。『蛇の道行』は、そんな蛇のイメージをモチーフに、正体不明の未亡人・青柳きわと戦争孤児となった立平との道中を描いた作品です。 青柳きわという名前があるのに「正体不明…

不気味な蟹の幻覚から逃げてきた一花が迷い込んだのは……加藤元『山姫抄』

山姫というメルヘンチックな言葉と表紙のイラストの可愛さに惹かれて、いわゆるジャケ買い(正確にはジャケ借り)した本。加藤元さんのことはこの作品で知りました。 日本に実際に伝わる『山姫伝説』をベースに、ある田舎町から消えた女たちの謎を追っていく…

「やみつき」になる読感(食感、ならぬ)平松洋子『買えない味2』

図書館平松洋子さんの『買えない味2』。エッセイの公募にはまっていた時期に、図書館でなんとなく手に取った本です。 書き手の平松さんはアジアを中心に世界各地を回っていらっしゃるようです。実はわたし、現代日本以外の食文化(海外とか古い時代とか)に…

目をそらしたくなるのにどこか懐かしい。川上未映子・初の短編集『愛の夢とか』

川上未映子初の短編小説『愛の夢とか』。 これまでにも『ヘヴン』や『すべて真夜中の恋人たち』、それから詩集『水瓶』など、彼女の作品はいろいろ読んできましたが、今作も未映子さんらしい独特の世界観が魅力的でした。 愛の夢とか posted with ヨメレバ …

噂の『国語入試問題必勝法』はとんでもない型破り小説だった!

ネットで思いっきり笑える小説を探していたところ、いろいろなサイトで『国語入試問題必勝法』(清水義範 著 / 講談社)が取り上げられていました。 サイト上にある感想は「電車の中で読んではいけない」「抱腹絶倒すること間違いなし」というような内容ばか…

噂と憶測で不安をふくらませた母親たちの行動が悲劇につながっていく……英国ミステリの女王が描いた衝撃作『遮断地区』

作者が現代英国ミステリの女王であること以外何の知識もなく手にした『遮断地区』 (ミネット・ウォルターズ / 創元推理文庫) 。よくある謎解きどんでん返し系の作品ではなく、どちらかというとスリリングホラーに近い内容でした。かなりショッキングなシーン…

フランス文学『椿姫』に学ぶ気高い愛の教え

フランス文学の名作『椿姫』を読みました。 オペラや歌劇にもなっている有名な作品です。いろんな方が訳していますが、個人的には『椿姫 (光文社古典新訳文庫)』の西永良成さんの訳が現代風で読みやすくておすすめです。 高級娼婦が主人公ということで、淫靡…

反抗期特有のモヤモヤやイライラの中身を解き明かしてくれる小説『モサ』

この作品は感想を書くのが難しいので紹介するか迷ったんですけど、せっかく読書メモもあることだし、伝えられる部分だけでも伝えてみようと思います。 人間でも動物でもない不思議な存在のカルガリ一家(外国人っぽいけど舞台は日本です)の長男・モサ(ニー…

『切り裂きジャック』(パトリシア・コーンウェル)シッカート犯人説について仔細に分析・考察した読み応えのある一冊!

先月、兵庫県立美術館で開催されている「怖い絵展」へ行って来たんですけど、そこで展示されていたシッカートの『切り裂きジャックの部屋』の説明で「切り裂きジャック・シッカート犯人説」とやらを知って興味を持ち、現在、パトリシア・コーンウェルの『切…

毒薬にまつわるリアルなストーリーが豊富な『毒薬の手帖』(毒薬の手帖)

毒薬という言葉の甘美さに惹かれて手に取った『毒薬の手帖』。 古代から順に毒薬の歴史を丁寧にたどっていく本です。 毒薬の手帖 (河出文庫 し 1-6 澁澤龍彦コレクション) posted with ヨメレバ 澁澤 龍彦 河出書房新社 1984-02-01 Amazon Kindle 楽天ブック…

エッセイなのに結末がミステリー!? 穂村弘『現実入門』 

SHOWROOMの配信を始めて以降、やれ旅行だお泊り会だオフ会だと飛び回っていた上に水面下で小説も書いていたので、ブログの方がすっかりお留守になっていました。 やっと落ち着いてきたので、久しぶりに本の紹介をしたいと思います。 じゃん! 現実入門 poste…

ストーリーは単純なのになぜかどの話も新鮮に感じられる不思議な短編集『ザ・ベスト・オブ・サキ』

『ザ・ベスト・オブ・サキ』は、最近バッグによく忍ばせている短編集。 短編集はちょっとした空き時間にさらっと読むことができて重宝します。 でも、ミスチルのライブに持って行ったら、恋人から「何しに来てん!」と突っ込まれました。 私的には行き帰りの…

著者が激しく暴走しながらさまざまな不思議生物を紹介していく『へんないきもの』

学校の夏休みが始まって、近所の図書館に「夏休みの自由研究」に使えそうなコーナーが出現していました。 何気なく眺めていると、『へんないきもの』(早川いくを著)という本が目についたので、気になって手に取ってみました。 へんないきもの posted with …