絡み合い、決して離れることない二匹の蛇が行きつく先は? 加藤元『蛇の道行』
交尾中の蛇はあざなえる縄のごとく、交互に絡み合いながらそこら中を這いずり回る。『蛇の道行』は、そんな蛇のイメージをモチーフに、正体不明の未亡人・青柳きわと戦争孤児となった立平との道中を描いた作品です。
青柳きわという名前があるのに「正体不明」と記したのは、この女が本当にきわ本人であるのかがわからないまま話が進められていくから。
その影には、秋田トモ代というもうひとりの女の存在があります。
誰の言葉も疑わない扱いやすい少女であったきわ。一方のトモ代は、少女時代からずる賢くて嘘つきでした。対照的な性質を持つ二人ですが、女たちが住み込みで弟子入りしていた美容師の先生・浅利サダ曰く「二人はどことなく顔つきが似ている」と。
いくら顔つきが似ているとはいえ、これだけ雰囲気が違えば見分けがつきそうなものですが、実はそこにおもしろいカラクリが仕込まれています。
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不気味な蟹の幻覚から逃げてきた一花が迷い込んだのは……加藤元『山姫抄』
山姫というメルヘンチックな言葉と表紙のイラストの可愛さに惹かれて、いわゆるジャケ買い(正確にはジャケ借り)した本。加藤元さんのことはこの作品で知りました。
日本に実際に伝わる『山姫伝説』をベースに、ある田舎町から消えた女たちの謎を追っていく……かんたんに説明すると、こんな感じのストーリーです。
民俗学ネタにテンションが上がる人は気に入ること間違いなし!
この小説は冒頭から不穏な雰囲気に包まれています。
幻覚の黒い蟹から逃げてきた一花(いちか)が、ド田舎に住むんでいる智顕(ともあき)の家に引っ越してくるシーンから始めまるんですけど……この男、実は既婚者で、しかも妻の姿子(しなこ)は失踪しているんです。
もう、登場シーンから危険なニオイしかしません。
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「やみつき」になる読感(食感、ならぬ)平松洋子『買えない味2』
図書館平松洋子さんの『買えない味2』。エッセイの公募にはまっていた時期に、図書館でなんとなく手に取った本です。
書き手の平松さんはアジアを中心に世界各地を回っていらっしゃるようです。実はわたし、現代日本以外の食文化(海外とか古い時代とか)に興味があるので、そのうち他の作品にも手を出す予定。
そして肝心の『買えない味2』は、ホットケーキのハレとケから、トーストを焼くための道具に関する考察、果てはかまぼこ板の使い道まで、食にまつわる話がぎっしり詰まった作品です。
味や食感に関する描写がどこまでも豊かで、読むだけで自分で味わう以上の満足感が得られました。加えて、話題を調理する腕も際立っていて、ひとたび読み始めるとページをめくる手が止まらなくなります。
「やみつき」になる読感(食感、ならぬ)、とでも言えばいいのか。
旅のお供にしたい一冊でした。
目をそらしたくなるのにどこか懐かしい。川上未映子・初の短編集『愛の夢とか』
川上未映子初の短編小説『愛の夢とか』。
これまでにも『ヘヴン』や『すべて真夜中の恋人たち』、それから詩集『水瓶』など、彼女の作品はいろいろ読んできましたが、今作も未映子さんらしい独特の世界観が魅力的でした。
それにしても、短編集が初めてというのは意外でした。
情熱大陸に出演されているときに(当時『ヘヴン』執筆中)、「長編を書くのに慣れていない」という理由ですごく苦戦されていたので、勝手に「短編の人」というイメージになっていたんですよね。
そういえば、短編集読んだことなかった! 「中編の人」だったんだね!
……ということで、続きで収録作品のうち3作品をピックアップして感想を書きたいと思います。
※以下、軽いネタバレを含む可能性があります。
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噂の『国語入試問題必勝法』はとんでもない型破り小説だった!
ネットで思いっきり笑える小説を探していたところ、いろいろなサイトで『国語入試問題必勝法』(清水義範 著 / 講談社)が取り上げられていました。
サイト上にある感想は「電車の中で読んではいけない」「抱腹絶倒すること間違いなし」というような内容ばかりでどんな物語なのかわからなかったのですが、気になったのでとりあえず読んでみることに……。
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噂と憶測で不安をふくらませた母親たちの行動が悲劇につながっていく……英国ミステリの女王が描いた衝撃作『遮断地区』
作者が現代英国ミステリの女王であること以外何の知識もなく手にした『遮断地区』 (ミネット・ウォルターズ / 創元推理文庫) 。
よくある謎解きどんでん返し系の作品ではなく、どちらかというとスリリングホラーに近い内容でした。かなりショッキングなシーンが含まれているので、苦手な人は読むのを控えた方がいいと思います。
ただし、単にグロさを追求した作品ではなく、重厚なテーマが込められた読み応えのある作品ではあります。
あらすじ(amazonの商品説明より)
バシンデール団地に越してきた老人と息子は、小児性愛者だと疑われていた。ふたりを排除しようとする抗議デモは、彼らが以前住んでいた街で十歳の少女が失踪したのをきっかけに、暴動へ発展する。団地は封鎖され、石と火焔瓶で武装した二千人の群衆が襲いかかる。医師のソフィーは、暴徒に襲撃された親子に監禁されて…。現代英国ミステリの女王が放つ、新境地にして最高傑作。
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フランス文学『椿姫』に学ぶ気高い愛の教え
フランス文学の名作『椿姫』を読みました。
オペラや歌劇にもなっている有名な作品です。いろんな方が訳していますが、個人的には『椿姫 (光文社古典新訳文庫)』の西永良成さんの訳が現代風で読みやすくておすすめです。
高級娼婦が主人公ということで、淫靡で官能的な内容を予想していたのですが、ふたを開けてみたら非常に気高い愛の物語でした。